婚約者の憂鬱




 落下する先に無数の針が見えた気がした。

「ッ!!」

 ジェラルドは剣を壁に突き立てる。

 全体重が両腕にかかり、宙吊りになる。

 爪先の遠くで銀色の針が、ほのかな明かりで浮かびあがる。

 落とし穴だ。
 アレックスが罠をまた作動させたらしい。このまま落ちたら、確実に死んでいた。
 すぐさま、腰にしがみつく悪友に怒鳴りつける。


「アレク! おまえ、もう歩くな、触んな、喋んなッ!」

 最後の命令は、間違いなく八つ当たりだ。

「えー? 声だけで作動する罠あるの?」

 ぶつくさ突っ込みを入れつつ、アレックスも剣を壁に突き立てた。
 彼は、自分の剣を足場に壁をよじ登ろうとする。



「何やってんですか」

 呆れ顔のカインが覗き込む。

「カイ、早く助けろ!」

「おふたりとも面白いから、しばらくそこで遊んでなさい」


 ジェラルドが叫べば、すでにカインは頭を引っ込めていた。

 無情にも、響く足音が遠ざかっていく。
 壁に張りつくアレックスがぼそりと呟いた。



「カインが前歩いたの、最初からこういうつもりだったの?」

「…………」

 ジェラルドは否定できなかった。

 彼が先頭を歩いたのは自分たちの安全のためではなく、調査を優先したかったからに違いない。






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