音の生まれる場所
「今日のこと、誰から聞いたんだ?ナツか?」

ハルの問いかけに首を横に振る。

「ううん…会社の人が坂本さんからチケットを貰ったらしくて、自分が行けないから誰か代わりに…って…」
「それで真由子が来たのか…」
「うん…私が一番暇だから…誌面作りに役立ってもないし…」

ただの電話番と掃除番。あとは簡単な雑務。それ以外は何もしてない。

「オレ達は今回真由を誘わねぇって決めてたんだけどな…」
「皮肉だね。ある意味縁かな」
「縁…?どういうこと?」

シンヤの顔を見た。

「今夜はあの曲を演奏するから…」

ハッキリしない返事。もう一度ハルに尋ねた。

「あの曲って何?」

神妙な顔つきをしてる。いつも冗談ばかり言ってるハルとは思えないような感じ。

「…『展覧会の絵』だよ…」

ボソッと囁かれた曲名を聞いて、ギクリと身構えた。

『展覧会の絵』…それは紛れもなく朔を思い出させる曲…。

「私……」

(聞かずに帰る!)

…その瞬間、頭の中でそう決めた。なのに…

「ハーイ!皆、元気〜⁉︎ 」

ドアをノックもせずに夏芽が走り込んで来た。

「おっせー、ナツ!何してんだよ!」

噛み付くようにハルが言う。

「何って、ちゃんと間に合うように来たでしょ!ほら、二人にお土産!」

ポンポンと花束を手渡す。

「ありがと、ナツ」

シンヤは優等生。ちゃんとお礼を言う。

「花なんか貰ってもなぁ…」

素直じゃないハル。その彼に向かって、小言を言うのが夏芽。

「じゃあやらない。返して」
「ジョーダン!貰った物は返せるか!」

いつもの二人のパターン。これまで何度も見てきた小競り合い。
でも今は、それを見ても笑えない。

帰るに帰れなくなり、黙り込んでしまった。
それにいち早く気づいたハルが、ナツに言った。

「ナツ、今日真由のこと頼むぞ」

真剣な顔つきになったハルを見て、夏芽がシンヤを振り返った。

「何が頼むなの⁈ 」

訳が分からない様子。無理もない。夏芽は私に誘われて、ここへ来たばかりだから。

「今夜、あの曲を演奏するんだよ」

シンヤの答えはまたしても漠然としている。でも、夏芽は二人の顔を見比べて気づいた。

「まさか…『展覧会の絵』?」

ハルが頷く。驚いたように目を見張る夏芽の視線が私に注がれた。
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