追憶のエデン
言うやいなやあたしの返答なんてお構いなしに、あたしの腕を引き、横抱きにすると、部屋から続くバルコニーへと出た。そして、黒い光に包まれたかと思うと、ルキフェルの背にあの時に見た黒い翼が、6枚生えていた。


こっちから行った方が早いからと地面を蹴り、夜空を舞う。
初めての空中飛行に恐怖心はあるものの、受ける風に心地良さを覚え、少しわくわくしてしまった。


1分にも満たない空中飛行を終え、連れてこられたのは月光下で咲き誇る美しい薔薇が沢山植えてある庭園だった。



「うわぁ……綺麗…!!」


「気に入った?」


「うん。よく見ると色や形、色々な種類があるんですね。こんなにあるなんて知らなかった。
本当に素敵な場所ですね。ありがとう、ルキフェル!」


心が満ちていくのを感じた。
些細な事かもだけど、こんな素敵な場所に連れて来てくれたという事に、ここに咲く薔薇の素美しさに、そして、ルキフェルの気持ちが素直に嬉しかった。
だから、自然と心からの気持ちと笑顔が溢れた。


「初めて笑ってくれたね。
……嬉しいなぁ。君はやっぱり笑ってた方が似合ってる。」


ルキフェルの嘘偽りのない言葉と、本当に嬉しいと言わんばかりの笑顔に目を見開く。そんな大袈裟なと思ったけど確かに、言われてみればそうかもしれなかった気がする。


(でも、状況的に笑えるわけないじゃない。それは現状を含めてだけど。)



ルキフェルに背を向けて、何気なく一輪の薔薇に手を伸ばす。



「ねぇ、その色の薔薇の花言葉って知ってる?」


掛けられた言葉の意味に、ルキフェルが何を考えてるのかは分からなかった。声に色が含まれている気がした。だからただ、教えてくれようとしているだけなのか、それとも何か裏があるのか、それが分からない。
少しずつ近付いてくる気配に振り向いてはいけないと何故か警鐘がなる。



「緋色の薔薇はね――」



「――灼熱の恋。」



「――陰謀。」



一歩、一歩、ゆっくりと近付いてくる。



「――そして…
< 14 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop