追憶のエデン
――情事。



ねぇ、僕、お礼を貰うなら、言葉もいいけど、こっちの方が嬉しいかな?」


あたしを抱きしめ、すぐさま指先を顎に掛けクイと上向かせるとあたしの唇がルキフェルの唇と重なる。驚き、抵抗する度深く塞がれる。するとルキフェルは抵抗出来ない様に髪に指を通し、頭を固定した。


「……っはぁ…んんっ…やめ…んっ」


苦しくて、止めて欲しくて言葉を紡ごうと口を開けると、ぬるっとルキフェルの舌が口腔内に入り込み、舌を絡ませてくる。


縦横無尽に犯していくルキフェルの舌が、逃げるあたしの舌を捕らえ、啜るように舐め、絡め上げ、どちらとも分からない含み切れなかった唾液が口の端から伝う。そして混ざり合う音が、脳内まで痺れされ、犯されていく。頭が可笑しくなる。考える隙さえ与えさせない。



――がくっ



もう自力で立ってさえいられなかった。




「下手糞なキス。
今まで何をアダムとしてきたの?
――それとも、あいつが余程下手糞だったのかなぁ?
だって、君キスだけで腰なんか抜かしちゃって、挙句、その事実に吃驚し過ぎて惚けちゃってるんだもん。」


「――っな!」


「事実でしょ?


でも、それも良かったかもしれない。


――ねぇ、これからは僕好みのキスも、誘い方も、喜ばせ方もぜーんぶ、その身体と本能に教え込ませてあげる…たっぷりと可愛がって、愛してあげるよ…

だから、その身体にまとわりついてるアダムの匂いをかき消して?早く君の体の隅々まで僕で塗り替えて?」

そのまま倒れ込み、吐息ごと耳に言葉を吹き込まれ、それはまるでアヘンの様に、危険で甘美な言葉の様に聞こえた。
しかし繋ぎとめた理性とプライドとモラルが、まだあたしを踏み止まらせる。


「未羽……っはぁ、んんっ…」


しかし、それを追い詰める様にルキフェルはまた、深く深く唇と舌を絡ませながら、快楽で本能を煽る。




薔薇のむせ返る香りの中、未羽は鼻に掛かる甘い吐息を漏らしては、ルキフェルに何処までも翻弄される。そして、月の光の下、蜂蜜みたいに濃厚で甘い麻薬の様なキスがいつまでも未羽に降り注がれた。
< 15 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop