追憶のエデン
薄いベビーピンクのパフスリーブのレースワンピ


リボンとレースが付いたオフホワイトのオープントゥパンプス


プチダイヤが控え目に輝くオープンハートのピンクゴールドのアクセサリー


髪は緩く巻かれ、メイクはナチュラルだけど、ドーリーアイズ。ピンクのチークをブラシでふんわりとのせたら、リップに少し赤みの入ったグロスをのせた。


ネイルだって抜かりはなく、クリアとピンクベージュのフレンチにラインストーンが品良く施されている。



メイドさん達が部屋から居なくなった後も鏡の前に立ったまま、まじまじと鏡に映し出された姿を見ていた。普段の自分とは全く違う自分になった事に驚きつつも、お姫様の様にメイドさん達の手で着飾れていく事にドキドキと嬉しさがあった。だけどそれと同時にルキフェルの為だけに着飾られた事に複雑な気持ちも沸き上がり、気分が上がりきらない。


(可愛いコーデだな……でも……)


準備が出来たらエントランスまで降りてきてと言われているため、鏡の前からドアの方へと足を進めてはみたが、気が重くて未だにこの部屋から出ることなく窓の外を眺めていた。



――はぁ…



「溜息なんて似合わないよ?
すごく可愛いのに。


…キスしたいくらいに…ね?」


いつの間にか部屋に入ってきていたルキフェルに全神経が集中する。そしてルキフェルの言葉に反応した心臓が頬を染め上げれば、縮められていく二人の距離に、更に身体中の血液が逆流していく。



――なんてね。期待した?



しかし重なるか重ならないかの距離は縮まる事なく、ほら、行こ?と柔らかく微笑みながらあたしの手を取るだけだった。



しかしこの行動によって僅かに感じた感情は、一瞬眉を顰めることになる。


(今のは一体…?)



――ルキフェルのあの笑顔に本能が息をするのを止めさせた。


そして、何よりも驚いたのは






――期待した。



――ルキフェルにキスされる事を…



――溺れる事を…






「どうかした?」


「……別に?」


「そぉ?」


「行かないんですか?」


少しこちらを気にかけるルキフェルの手を今度はあたしが引いて先を促す。


(ありえない。)


そう、ありえない。あたしは彼が嫌いなのだから。
そう思うと気持ちを切り替え、エントランスホールから初めての外へと出た。
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