追憶のエデン
ギリギリの意識の中、切望する声と温かな体温。それをどのくらい感じていたのだろうか。長い時間そうしていた様な…それとも僅かな時間だったのか……。二人の呼吸のリズムと共に和らいでいく痛み。
あれは一体なんだったんだろうか。


ゆっくりと目を開ければ、綺麗なサファイアブルーの瞳が大きく見開かれ、一瞬、息を飲む音が聞こえた。


「…イヴっ!?」


もう一度強く抱き締めるその腕は少し震えていた。


でも――



「貴方は誰?」



その一言に込められていた力は緩み、それまであたしを閉じ込めていた腕はダラりと下に落ち、そして今にも泣きそうに笑う彼がいた。


「そっか。」


彼の一言と共に流れる沈黙。
口火を切った言葉はこの場に不釣り合いな疑問文だった。


「何で泣きそうな顔で笑うんですか?
そんな顔で無理に笑わないで下さい。」


「君のせいなのに?」


どこか冷めた悲しげな声に伴う罪悪感と疑問文。


「あたしのせいってどういう事?
ねぇ…貴方は誰なんですか?
それに花嫁って?
あたし、イヴって名前じゃないし、人違いなんじゃないですか?
それと此処って一体何処なんですか?確かにあたしは自分の家にいていつも通り自分のベッドに入って寝てた筈…。
あと術って何?人間には?もう、何もかも訳がわかりません!」


一度湧き出た疑問は次々と出て来る。だけど、その一つ一つがどれも現実から離れ過ぎているのだから仕方がない。



「僕の名前はルキフェル。因みに元天使だから、今は堕天使ってとこ。
そして、君がイヴで俺の花嫁って事は魂の契約上、間違いないから安心して?」


(は?……)


「あと、此処は何処って話だけど、君の住んでる家だし、此処が君の部屋って事であってるよ。
但し、夢の中。つまり君の精神世界に僕達は今いるって事。
こんな事が出来るのも、僕は人間じゃないからだし、どんな術かはその内わかるから、説明無し。」


さっきまでの雰囲気は一変し、柔らかな口調で答えてくれた。ただ肝心な自分の身に起こった事が明白でないのが納得できない。
だからもしかしたらからかわれているのかとも思ったけど、そんな風にも見えなかった。


魂の契約上と言われても証拠となる根拠がないものはさて置き、あたしがイヴと言う名の女性であった前世でもきっとあるのだろう。
――輪廻転生。そういったものがこの世界における全ての生物にあると聞いた事があるくらいだ。だから根拠や真偽は兎も角、前世の記憶なんて持ち合わせている訳でもないので、全否定はきちんと答えてくれた彼に失礼かなと思った。


(まぁ、これに関してはね。)
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