追憶のエデン
いつの間にか眠ってしまってたみたいだった。
目が覚めると隣にてっきり一緒にいると思っていたルキフェルはおらず、シーツは冷えたままだった。
その冷えたシーツをさらりと撫でると、胸が締め付けられ、重く鈍い痛みがじわじわと広がっていく。


大きなベッドと広いこの部屋。さっきまで貪る様に、執拗に迫り絡め合うキスをしていたのが嘘の様に、ただ一人この広すぎる空間に取り残されていた。
そしてそのことが更に胸を締め付け、今すぐこの部屋から出て行きたくなった。



廊下へ続くドアを開ければ照明は落とされ、月の淡い光だけで廊下を青白く静かに照らす。
日中も割と静かな城内だけど、夜の城内は物寂しさを漂わせているせいか幻想的な雰囲気に包まれていて、暗闇を歩く恐怖心を抱く事なく、この雰囲気に魅入りながらこの長い廊下を歩いていた。



「――?―ッ…。」


――パタン



ほどなく歩き、下の階へと続く階段を後2、3段で下り終わる頃、ドアの閉まる音と声が微かに聞こえた気がした。


(今、声とドアの閉まる音が聞こえたよね?まだ起きてる人がいたのかな?)


何気にその音のした方へと向かって足を進めると、夜の静寂に包まれているせいか、徐々に声がはっきりと聞こえ始め、途中から鈍器で頭を思いっきり殴られたような…うんん、そんなんじゃ言い表せない程、視界は闇に染まり、呼吸は止められ、ナイフで心臓を一突きされた後、ぐりぐりと抉られたみたいになった。






「アリシア…愛してるよ。もっと僕を求めて?
――はぁっ…ぅん……」


「ん…ぁッ…‥ルキフェル様ぁ…わたくしもッ…愛してますわ……
 あっ…んっ……んんっ!」


「可愛ぃ…アリシアっ…はっ…もっと…もっと…僕に感じて?」



軋むベッドの音、甘ったるい声、そして愛を確かめ合う男女の声と水の音――。



(…アリシア、さん?……ルキ、フェル?)



――何をしてるの?


――聞きたくない。


――何で、アリシアさんと一緒にいるの?


――何で、その言葉をアリシアさんに使うの?



――『愛してる』ってあたしに何度も言ってたじゃないッ!!



(何で…?)


「……ッ…もう…訳ッ、わかんなぃ…クッ…!」


次から次へと溢れては零れる涙は、「心が痛い」と伝えるかの様に壊れたみたいに溢れ続け、震える脚は現実を否定するかのように動けない。でもこの場所から早く離れたくて、無理矢理引きずる様にその場所を去った。
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