追憶のエデン
*




大きな大きな月だけが夜空にあるだけの空を飛び、降り立った場所はあの湖だった。
無音だった世界にカサリと二人の足音が響く。


「見せたかったものってこれ?」


「んー、あともう少しで始まるから見てて。
でも、その前に……」



「きゃぁっ!!」



いきなりグイッと手を引かれ、ルキフェルの隣の芝生にポフンと座り込むと、ルキフェルは悪戯が成功した子供みたいな笑顔をあたしに向けた。


「ちょっと!いきなり何す――え?」


ふわりと何かキラキラと輝く小さく淡い金色の光を放った丸い雪の様なものが空からゆっくりと降ってきた。



「始まったよ。」



ルキフェルが湖の上空を見上げる。
あたしもその視線を追う様に見上げれば、湖の真上には蜂蜜の様に蕩けてしまいそうな大きな黄金の月が浮かび、その月からふわふわと無数の光がキラキラと輝きながら湖に向かってゆっくりと降り注ぎ始めた。


「うわぁ~!綺麗!!」


余りにもその息を飲むような幻想的な世界に心が奪われ、歓喜の声が上がる。
そしてそんなあたしを見てルキフェルは嬉しそうに綺麗なサファイアブルーの瞳を弧を描く様に細めて行き、「その光をそっと掌の上で見てごらん?」と言ったので、光の一つを両手の上にそっと乗る様に湖の上で翳してみた。



「―ッ!
す…す、ごぃ…コレはお花?
なんて、綺麗なの…それに…すごく、可愛いっ!!」


ふわりと光が掌に乗った矢先、あたしの掌の上には月の色と全く同じ色のシロツメクサの様なお花が金色の光を携えていた。


そうこの無数のキラキラと輝くまあるい金の光は全て小さな花だったのだ。


「未羽、この花は全部あの月の欠片から出来てるんだよ。


ねぇ未羽はこんな話、人間達の間で聞いた事ない?
――月には魔力があるって話。
それはね嘘でも何でもないことなんだ。
月はこの世界を支える一つの源でもあるんだよ。
ただ人間界に浮かぶ月とは違って、遥かに大きな魔力が、魔界に浮かぶ月には満ち欠けと共に増幅していく。
でも月がその魔力を蓄え続けておけるのにも限界があってね、年に1度必ず決まった時に限界を迎えるんだ。
そしてその限界を迎える夜、月はこうして魔力の欠片を小さな花の結晶に変え、長い年月を掛けて月自らが創り出したこの湖へと返り、地中へと流れ、この世界に隅々にまで拡がっていき、この世界を支える魔力の一つとなるんだ。」
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