好きになんか、なってやらない
 
昔からそうだ。

彼は自信家。
言ったことは曲げないし、信念を貫く。

そう言ったところは、岬さんに少し似ている。


いや……。
人生において、モテる男というものは
自信に満ち溢れているのかもしれない。



「私はもう、陽平のことは好きになったりしないよ」

「そんなの分かんないでしょ」



分かる!
と口を開こうとしたそれは、彼の長い人差し指によって止められてしまった。

その先にうつるのは、何もかも見透かしてしまいそうな、透明の瞳。


「とりあえず、今日は帰ろう。
 車が嫌だって言うなら、駅まで送ってくよ」


有無を言わさない彼の言葉。

強引に触れることもなく、拒否を与える隙も与えない。

一歩先を歩いて、私を促す。


好きだった。
彼のそういうとこが……。

同い年なのに余裕を感じて、いつも私をリードしてくれる背中。


もしももう一度、彼を信頼することができたのなら……



「……電車までは一緒に乗らないでいいからね」

「はいはい」



私はまた、「女の子」を意識することができるのだろうか……。
 
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