好きになんか、なってやらない
 
「ごめんね、いきなり」
「いえ……」


落ち着いたカフェ。
壁側の人があまりいない席に通してもらい、美空さんは帽子を外した。

途端に綺麗にウェーブがかった髪が肩にかかり、
美空さんがつけているであろう、甘い香水の香りが漂った。


この匂い、苦手だ。


「お話ってなんですか」
「分かってるでしょ?あたしがあなたに話すことなんて」
「……凌太の事なら、本人に言ってください」
「いいの?そんな自信見せつけて」


目を細めて、じっと見据える美空さん。

目力があるとはこのことだ。
凌太も目力があるから、そういった類の人に見つめられるのは慣れているけど、免疫がなければ絶対に言葉を失う。


「自信なんて何もないですよ」
「その態度が自信満々に見えるの。
 ……しかもあなた、この前の時と別人みたいね」


少し苛立ちを見せた美空さんは、私の顔を見て呆れ顔を見せた。

そりゃそうだ。
あの時は、プロの人にメイクをしてもらっていたとき。髪の毛も綺麗にセットアップしてもらって、いつもの5割増しに綺麗にしてもらえていた。

だけど今の私は、自分で適当に、ファンデとマスカラとアイシャドーを塗っただけ。
まるで、目の前の美空さんと正反対だ。



「なんて、そんなことどうでもいい。
 
 お願い……。
 凌太をあたしに返して」



さっきまでの態度と打って変わって、
美空さんは急に懇願する眼差しを私へと向けてきた。
 
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