好きになんか、なってやらない
「押尾さん、お願いがあるんですけど」
「ん?」
「美空さんとお話ししたいんで、中に入れてくれませんか?」
あまりにも、無茶なお願いだと、重々承知していた。
だけどどうしても、彼女に会いたい。
会って話したいことがあった。
すぐに断られると思っていたそのお願いを、押尾さんは満足そうに笑って煙草を消すと、
「そうこねぇとな。
ついてこい」
あたかも最初から分かっていたかのように、私を中へ入れてくれた。
「押尾さんって、嫌味な人ですね」
「よく言われる。でも為になったろ?」
「はい……。すごく」
苦手な人であることには変わりない。
だけど彼を憎むことはきっとない。
押尾さんはいつだって、間違ったことを言ったりしないから……。
「いい瞳になったじゃねぇか。
今のお前なら、すげぇ撮ってやりたいけどな」
「遠慮しておきます」
喝が入った自分。
もう、勝手に引きこもった悲劇のヒロイン気取りはおしまいだ。