孤独女と王子様
どんな悲しいことがあっても、どんな悔しいことがあっても、どんな嬉しいことがあっても、泣いたことなんて、物心ついた時から、ない。

由依ちゃんの寝顔を目に焼き付け、僕も隣のベッドに横になった。

けど一睡も出来ないまま、日が暮れた。

ホテル内のレストランで食事をして、部屋に戻って順番にシャワーを浴びた。

僕が由依ちゃんの後でシャワーを浴びて出ると、由依ちゃんは髪を乾かしていた。

耳の下くらいの長さ。
いわゆるボブ。
髪は染めていない。

小顔な由依ちゃんには良く似合う髪形だ。

「ずっと、髪は短いの?」

僕の、ドライヤーのスイッチを切って静かになった部屋で、シャワーから出て最初の言葉。

『いえ、この髪形になったのは社会人になってからです。高校まではずっと長かったんですよ』

由依ちゃんはドライヤーのコードをくるくる巻き引き出しにしまった。
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