シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
「雫、早く来いよ!」
 元気よく、金魚すくいの出店へ向かって駆け出すショウ君。
「待ってよ~! はぐれちゃう!」
 草履の私は必死で追いかける。
 そう、里子と私は、子供用の浴衣を着せてもらってたっけ。
 やっとお店の前へ到着したときには、ショウ君はすでに金魚すくいを開始していた。
 逃げ惑う金魚たちに悪戦苦闘のショウ君。
 それでも、どうにか二匹つかまえたようだった。
「たったの二匹か……。しょうがない、雫にやるよ」
「えっ、いいの?」
「おう。僕は捕まえるのを楽しんだからな。別に金魚は要らねーし」
「ちょっと~。面倒だから、押し付けてるんじゃない? それ」
 笑顔で私がなじると、ショウ君は一瞬「しまった」という表情をした。
 やっぱり~。
 でも、どんなカタチであれ、ショウ君からプレゼントしてもらったのは確かなので、「ありがとう」と言った私。
「お、輪投げも面白そうじゃん。おじさん、一つ!」
 ショウ君は早くも、お隣のお店へ移動している。
 そして、お店のおじさんから手早く輪を受け取ると、すぐに挑戦を開始した。
 マイペース、そして行動が速い。
 そんなところも、私がたまらなく好きなところだった。
 あと、真剣なまなざしと、手首のスナップをきかせて輪を投げるフォームの美しさも、私の記憶に深く刻まれている。
 ずっと忘れないと思う。
「よーし! 三日月ウサギぬいぐるみゲット!」
 ショウ君は、ぬいぐるみをゲットしたようだ。
「ほら、これもやるよ」
 お店のおじさんからぬいぐるみを受け取ると、私の手に押し付けるショウ君。
「いいの?」
「さっきの金魚すくいも同じ。僕は『金魚すくい』とか『輪投げ』をするのが好きだから。景品は全部、雫にやるよ」
「あ、ありがとう」
 いっぱい貰っちゃうことは気が引けたけど、貰えた嬉しさのほうが大きく、私は素直に受け取った。
 そして、ぬいぐるみを力いっぱい胸に押し付ける。
 私の宝物。
「お小遣い、あと100円しかないな。さーて、次はどのお店に挑戦しよっかな」
 立ち並ぶ出店を見回して、吟味し始めるショウ君。
 そのとき―――。
「お~い! ショウちゃん、シズちゃん!」
 私たちを呼ぶ大きな声が聞こえた。
「いけね。おじさんだ! すぐ戻らないと怒られるぞ!」
 そうだった。
 この夏祭りへは、子供だけで来ただけではない。
 里子かオサム君かどちらかの、親戚のおじさんと一緒に来たんだった。
 だけどショウ君が、「あっちに金魚すくいがあるぞ! こっそり二人で行ってみようぜ」って言い出して、私たちは別行動を取ることに。
 すぐバレちゃったけど。
 私たちは駆け足でおじさんや里子たちのもとへと戻った。


 本当に楽しかったなぁ。
 今でも、あのときのぬいぐるみは私の部屋にある。
 大切な宝物だ。
 三日月もその上のウサギも、だいぶ汚れてきちゃってるけど……。
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