シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~

勇気を出して

 花火が終わり、私たちはそれぞれの部屋へと引き上げた。
 部屋で独りになると、途端に蓮藤さんのことを思い出す私。
 どうしよう。
 もう、好きで好きでたまらない。
 ショウ君への20年分の想いだって、もちろん大きいのは確かだ。
 だけど……それと同じくらいにまで、蓮藤さんへの想いが膨らんでしまっていた。
 その優しさと、時折見せるお茶目な一面に惹かれて……。
 もちろん、ルックスだって飛びっきり良いんだけど、私が好きなのは蓮藤さんの内面や仕草などが中心だった。
 そして私は考える……。
 もし、今……ショウ君が私の前に現れたなら……私はどちらを選ぶのかな。
 もちろん、そんな奇跡、起こりそうにないんだけど。
 それに、そもそも、私は選べるような立場ではない。
 恐らく、どちらからもお断りされてしまうだろう。
 片思いなんだから。

 それから、すごく不思議な気分になる私。
 ここに来る前の私だったら、「どちらを選ぶ?」の質問には、「ショウ君」と即答していた。
 どんなときでも、ショウ君のことを想って、この20年、生きてきたから。
 だけど、今は……。
 蓮藤さんのことを思うたび、わからなくなってくる。
 こんな気持ちを、また抱くことになるなんて……。
 ショウ君以外の男性に対して……。
 ショウ君との初恋以来、こんな気持ちになったのはこれが初めてだ。
 蓮藤さんが……好き。

 蓮藤さんは私のこと、どう思っているのかな。
 嫌われてはいないはずだけど……恋って意味で「好き」になってもらうのは、難しい気がしている。
 かなりご主人様思いの蓮藤さんはきっと、私たちが恋人関係になることなど、許さないだろうし、そうした可能性を考えることすらしないように思う。
 気持ちを伝えたら、きっと困らせてしまうだろうな……。
 だけど……だけど……。
 気持ちに嘘はつけない。
 そして……ショウ君との初恋みたいな結末……もう耐えられない。
 気持ちを伝えなかったばっかりに、こんなに長い間、苦しむことになっちゃったから。
 たとえ、嫌われようが、軽蔑されようが……伝えなくちゃ。
 そもそも、蓮藤さんには既に彼女さんがいらっしゃる可能性だってある。
 モールでのあの会話で蓮藤さんが否定したのは、「奥様がいらっしゃるかどうか」って質問だ。
 決して「彼女さんがいない」ということではないから。
 そこもはっきりさせないと……。
 ……こんな気持ちのままじゃ、寝られない。
 伝えないと!
 はっきりさせないと!
 私の心は急速に固まっていった。
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