シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 蓮藤さんの部屋はシンプルだった。
 白とグレーを基調としたカーテン、カーペット、壁紙などが、印象的だ。
 あまり物が多くない部屋だと感じた。
 蓮藤さんに促され、私たちはゆっくりと椅子に腰を下ろす。
「それで……お話とは? 早速お伺いしてもよろしいでしょうか? 急かしている意味合いはございませんのですが、どうにも気になってしまいまして」
 頭を掻く蓮藤さん。
 かなり心配させちゃっているみたい。
 心苦しいんだけど、私としても、気持ちを伝えるのには相当勇気が要るから、すぐに言うことはできなかった。
 ゆっくりと深呼吸をする私。
 蓮藤さんは不安そうな表情だけど、静かに待っていてくれた。
 そして―――。
「私……私……蓮藤さんのこと、好きです」
 言ってしまった。
 ポカンとした顔の蓮藤さん。
 少し額を掻いたあと、蓮藤さんは小さい声で「えっと……」と言った。
「その……『好き』というのは、『恋愛的な意味で』でしょうか? そして、会長のことは、どうお思いで……? すみません、少々混乱しておりまして……」
 困惑気味の蓮藤さんを見て、申し訳なくなってくる。
 やっぱり、困らせちゃった……。
「いえ、突然のことですし、その……私こそ、すみません。ですが、本気なのです。『恋愛的な意味で』、お慕いいたしております」
 言っちゃった。
 蓮藤さんはしばし目を丸くしていたけど、やがて真剣な表情となり、ゆっくりと言う。
 まるで、慎重に言葉を選んでいるかのように。
「雫様……。お気持ち、理解いたしました、ありがとうございます。ですが、私は知りたいです。雫様がどれだけ『本気』なのかを。そして、素の私をご覧になった上でも、そのお気持ちに変化がないかどうかを」
 え?
 素の蓮藤さん?
「その……私は本気です! そして、蓮藤さんが蓮藤さんでいらっしゃる限り、気持ちは変わりません!」
 私は強く言い切った。
 迷いなんか、なかったから。
「了解いたしました。ただ、既に十分にご理解いただいているとは思いますが、私は会長に忠誠を誓っております。その信頼に背くような真似はいたしたくないのですね。なので、今回のお見合いについては、予定通りに行っていただきますが、よろしいでしょうか?」
 それは仕方がないかな……。
 キャンセルなんて、なかなかできないし。
「はい、大丈夫です。それで……その……」
「私の気持ちってことですよね? 告白していただいたわけですから、お答えを求められるのは当然のことだと思います」
 私が聞きにくいことを、サラッと言ってくれる蓮藤さん。
 私の鼓動はまた一気に跳ね上がった。
「では、提案がございます。会長のご到着までの間、恋人関係になりませんか? 私としても、雫様のことは、大変美しく、そして聡明な方であると考えておりますし、率直に申し上げますと、好意を抱かせていただいてはおりますので。それで、もし、『お付き合いしてもやっていける』と思われるのでございましたら、そのまま行きましょう。もし、『こんな人間だったのか』と私に対して幻滅されたのであれば、関係を解消し、会長と真剣にお見合いしていただくということで。よろしいでしょうか?」
「はい! よろしくお願いいたします!」
 私に異論などあるはずがなかった。
 お付き合いしてもらえる?!
 期待に心が躍った。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 椅子から立ち上がり、綺麗なお辞儀をする蓮藤さん。
 最敬礼、といった感じのお辞儀だった。
 私も思わず席を立つ。
 蓮藤さんだけに立っていてもらうなんて、失礼だから。
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