シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
「え?」
 私は、まるで時間が止まったかのように感じられた。
 確かに……私だって、里子の言っていることを疑ってたのは間違いない。
 だけど、根拠がやや薄く、証拠が足りないように思えるのに……。
 私は、そっと翔吾君のほうを見る。
 その顔色は驚くほど悪かった。
 どうして黙ったままなのかな。
 里子が言葉を続ける。
「その傷、幼稚園の頃に、遊具に挟んでつけたんでしょ。正直、名前のことは覚えてないんだけど、ショウゴさんだったっけ、まさしく『ショウ君』じゃん。どう? 違いますか?」
 無言のままの翔吾君。
「マジか。確かに、そういやショウの手には、大きな傷があったよな。……ショウなのか?」
 オサム君も問い詰める。
 翔吾君は黙りこくったままだ。
 言葉が出ないみたい……。
 空の花火は連続で上がっていくが……私の耳にはあまり届いていないような感じだった。
 里子がさらに言う。
「さぁさ、観念しなさい! 私の目はごまかせませんよ! 白状、白状!」
 その時、無意識のうちに、私が言葉を発していた。
「里子、オサム君……。あまり翔吾君を責めないで。きっと何か、事情があるんだから。翔吾君がショウ君なのかどうか、それはまた今度ってことで……」
「ちょっと、雫は知りたくないの?!」
 里子が私に聞く。
 そりゃ、私だって……。
 でも、今こうして、翔吾君が二人から詰問されてる姿を、そばで黙って見ているのは、私には耐えられなかった。
 翔吾君のこと、誰よりも愛しているから。
 その翔吾君が責められて困っている……。
 私にはそれがどうしても我慢できなくて……。
「私も、知りたくないと言ったら嘘になるけれど。でもそれは重要なことじゃないと、私は思ってるの。今の私は、翔吾君が好き。だから、責めないで。きっと何か事情があってのことだから。翔吾君が責められて困っているのを、何も出来ずに見ているのが辛くて……」
 私は翔吾君と里子を交互に見ながら、力説した。
 どうにか、この暗い雰囲気を変えようと。
 翔吾君と里子はなぜか、目を丸くしている。
「雫……。そんなにまで、彼のことを……」
 里子がうつむいて言葉を続ける。
「ごめんね。責めるつもりはなかったの。さぁ、オサム君、奈美枝、行きましょう。せっかく二人っきりで、花火を見てる雫たちがかわいそうだから」
「うーん、素性を隠したまま、雫ちゃんとデートしてるとこがいただけないけど……。雫ちゃんが困ってるみたいだし、雫ちゃんに免じて今日のところは許してやる。邪魔したな……」
 そう言って手を振り、立ち去っていく里子の後を追うオサム君。
 花村さんは翔吾君と私に向かって一礼したのち、二人の後を追いかけていった。
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