シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
 また二人っきりになる、翔吾君と私。
 花火は少しペースが落ちたようで、静かに何発か上がっている程度だ。
「ごめんな。俺のせいで……」
 申し訳なさそうに、翔吾君はうつむく。
 こんな姿も、私には辛かった。
「そんな顔、しないで。元気な翔吾君のほうが、ずっと好きだから」
「ありがとう。俺をかばってくれて……。うん、明らかに俺が悪い。だから、もう白状する」
「え?」
 私はつばを飲み込んだ。
 白状って、まさか……。

「里子やオサムの言う通りだよ。雫たちが『ショウ』って呼んでた人物、それ俺だから」
 大きな花火の音と共に、耳に入ってきた言葉。
 私は文字通り、耳を疑った。
「えええ?!」
「うん、びっくりすると思う。隠してて、ごめんな」
 真剣な表情のまま、足元に視線を落とす翔吾君。
 嘘? ……にわかには、信じられない……。
 じゃあ、どうして……。
「なんで隠してたのか、って思ってるだろ?」
 思っていたことを言い当てられて、ビクッとなった。
「別に……ずっと隠し通そうと思ってた訳じゃないから。時が来れば、打ち明けるつもりだったよ」
「時って?」
「まぁ、色々あってな……」
 言葉を濁す翔吾君。
 いつしか花火は終わっていたようだ。
 衝撃の事実を知ったことにより、花火そっちのけの私。
 ただただ、呆然としていた。
 それでも、気持ちを奮い立たせ、再度確認してみる。
「ねぇ、ほんとにショウ君なの? 幼稚園の頃、転校していったショウ君……。弓長って苗字の……」
「おう。俺の親父、弓長って苗字だ。小さい頃、親が離婚して……俺はおふくろについていったからな。雫のこと、里子のこと、オサムのことは、特に仲がよかったから覚えているよ。関東に転校後も友達は増えたけど、雫たちのことを忘れることはなかった。この島での楽しい想い出と共に」
 遠い目をする翔吾君。
 やっぱり、ショウ君だったんだ……。
 私はやっと信じることができた。
 でも……打ち明けられない事情って一体何だったんだろ。
 嬉しい反面、そこが気になって仕方がなかった。
「どうして……。どうして一言も言ってくれなかったの? 桜ヶ丘さんとのお見合いのせい?」
「まぁ、それもあるな。とにかく、事情が込み入ってるんだ。今は言えない……ごめんな。ただ、これだけは約束する。近いうちに、そうしたことも、何もかも全て、雫にだけは打ち明けるから。もう少しだけ、時間をくれ。それも、1週間も要らない。ほんの数日でいいから」
 翔吾君は深々と頭を下げた。
 こんな風にお願いされると、恐縮しちゃう。
 私が問い詰めてるみたいで、心苦しいし。
「うん、分かったよ。これからも、よろしくね、ショウ君。これからはショウ君って呼ぶね」
 少し驚いた顔のショウ君。
 しかし、すぐに笑顔を取り戻してくれた。
「ありがとな、雫。色々、ごめんな」
 ここで、私は思い切ってショウ君に接近すると、背伸びして唇にキスした。
「謝ったから。私だけ罰があるのは、おかしいでしょ。だからおあいこ」
「やるようになったじゃん。そっちも覚悟しておくようにな」
 二人で笑いあった私たち。
 翔吾君がショウ君だって分かって、私としては本当に嬉しかった。
 しかも、私のこと、覚えていてくれたなんて。
 まさに、天にも昇る心地って感じで。
 ショウ君はまた私を抱きしめ、キスしてくれる。
「今のは罰とかじゃなく、ただ単純に、キスしたくなったから」
 ショウ君の言葉に、私の心拍数が上昇していく。
「じゃあ、もっともっとしてね。これからいつでも」
「おう、任せておけ」
 そうして私たちは、しばしその場にとどまったまま、抱き合ったりキスしたりしていた。

 その後、私たちは元来た道を引き返していった。
 途中、神社でお参りは済ませておいたけど。
 願ったことはもちろん、「いつまでもショウ君と一緒に幸せに過ごせますように」だ。
 ショウ君も同じことを願っていてくれたら、いいな。
 それから、出店にまた立ち寄り、たこやきだけ買って、私たちは夏祭りを後にした。
 すっかり暗くなっているせいで、駐車場周りの景色も一変しているように感じられる。
 それでも、ショウ君は慣れているせいか、迷うこともなく、車のもとへと案内してくれた。
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