今宵も、月と踊る
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シャワーを浴びて身体を拭くと、鏡の前に立って鈴花に習った通りにひとつずつ丁寧に着付けを行っていく。
志信くんにもらった桜色の着物は薄いピンク色の中に様々な草木の模様が目に鮮やかで私にはもったいない代物だったが、今日ばかりは綺麗に見えますようにと祈りながら袖を通す。
お節介な鈴花は着付けだけではなくこの桜色の着物に合うような、ちょっとしたメイクのこつや、髪型のアドバイスまでしてくれた。
頼もしい友人のおかげで、今宵は別人になれたような気すらした。
「出来た……」
志信くんに釣り合うかどうかビクビクと周りの顔色を窺う小夜はもうどこにもいない。
……彼には最後に綺麗な姿を覚えておいてもらいたいたかった。
(黙って出て行くくせに、自分勝手よね)
自嘲気味に笑いながら部屋を出ると静まり返った闇の中、本宅に続く渡り廊下を歩く。
道案内は必要なかった。橘の痣が志信くんの居場所を教えてくれる。