今宵も、月と踊る

月岩神社に到着すると既に境内の中は大勢の人で一杯になっていた。

神楽殿の前には見物客との境を示すように細い縄が引いてあり、周りには座布団やビニールシートがそこかしこに敷かれている。

先日、鈴花と俊明さんが愛を誓い合った時とは異なり、奥の祭壇には所せましと供え物が納められていた。

催し物としか聞いていないが、一体何が行われるのだろう。

この人混みでは鈴花の姿を見つけることもできない。

合流することは早々に諦めて空いているスペースに身を埋める。

今か今かと待ちわびていると、ほどなくしてお揃いの萌黄色の狩衣を着た楽人たちが緋毛氈の上を歩いて神楽殿にやって来た。

< 35 / 330 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop