今宵も、月と踊る

(俊明さんだ……)

遠目だが楽人の中に俊明さんの姿を見つけることが出来て嬉しくなる。

楽人達は用意されていた席につくと各々の楽器を奏で始めた。

……それは、天にまで届きそうな神々しい音色だった。

ざわざわと騒いでいた人の声がピタリと止む。楽人達は観客を日常世界から切り離し、別世界へと誘っていった。

「あ」

私は思わず声を漏らした。

緋毛氈の上をもうひとり男性がゆっくりと歩いてくるのが見えたからだ。

楽人達と区別するように、こちらは衣冠を着用しており、両手で榊を掲げている。

男性は祭壇の前までやってくると跪いて頭を下げた。

そして、再び立ち上がった次の瞬間。

……見事な舞を披露し始めた。


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