今宵も、月と踊る

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二次会に行くという社長および同僚達と別れて、ひとり電車に飛び乗る。

電車内は仕事帰りのくたびれたサラリーマンや、私同様飲み会帰りのOLでぎゅうぎゅう詰めだった。他の乗客に押されるように窓際に追い詰められれば、身動きのできない状態で次の駅を待つしかない。

流れては消えていく住宅街の明かりをぼうっと目で追う。

地元を離れ都会に就職してから幾度となく電車に揺られてきたというのに、この明かりの元には家庭があって、待っている人がいると思うと。

……電車に乗るこの時間がにわかに寂しくなる。

ふうっと息を吐いて窓から目線を外して車内に目を向ける。

大学生らしきカップルが互いの耳に口元をよせて、何事かを囁き合っているのが目についた。クスクスと自然に零れる笑みが、仲の良さを感じさせる。

私にもあんな頃があったなと懐かしむような、羨むような気持ちになってくる。

(結婚ねえ……)

私だって結婚に興味がないわけではない。

素敵な旦那様と可愛い子供。絵に描いたような幸せな家族を持つことに、人並みの憧れだって持っている。

……私もいつかは誰かと出逢って結婚するのかな。

そう遠くない未来の話のはずなのに驚くほど実感が湧かないのは、一人暮らしが長いせいなのだろうか?

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