今宵も、月と踊る
(どこまで行くつもりなのかしら?)
私は彼女の背後、3メートルほどの距離をつかず離れず保っている。
途中で何度かつまずいて、足元を照らす物を持ってくれば良かったと、軽はずみな行動を反省することとなる。
幽霊には何てことない道筋でも、私は現実の人間なのだ。浴衣しか身に着けていない身体は寒さで震えはじめた。
白い玉砂利と飛び石が敷かれた庭園部分を過ぎ、橋が架けられた池を越えると、本宅の明かりもほとんど見えなくなった。
離れからも随分遠くまで来てしまったようだ。この規模の大きさは庭園というより、もはや林に近い。
“ここよ”
彼女はある一角で立ち止まると、苔むした石碑を指差した。辛うじて石碑と分かるのは、かつて何かが刻まれていたような跡が薄ら見えたからだ。
“私の寝床よ。嘆かわしいでしょう?”
高さ約1メートル、幅約50センチほどの大きさの石碑はかつての輝きを完全に失っていた。
全く手入れされていないのか草はボーボーに生えているし、苔の他にも水垢や錆が付着していた。