今宵も、月と踊る
「あなたは誰なの?」
橘川家の敷地内に石碑として祭られるほどの重要人物。その正体を私はどうしても知る必要があった。
“私の名前は豊子(とよこ)よ。皆は豊姫(とよひめ)と呼んでいたわ”
豊姫は私の周りをクルクルと飛び回った。姫と呼ばれていたくせにかなりやんちゃだ。
「もしかして……あなたが最初の“カグヤ”?」
私は歩いている間ずっと考えていた質問をぶつけた。
豊姫は答えなかった。ただ、寂しそうに笑うだけだ。
“ねえ、小夜。あなたに会えて嬉しいの。私は長い間、ずっとひとりだったから”
豊姫は私の鼻を指でチョンと突いた。
“これから仲良くしましょう?”
それは、ハートマークがつかんばかりの熱烈なラブコールだった。