もう一度君の笑顔を
一日かけて一通りの検査を終え、詳しい事は明日にならなとわからないが、多分、明後日には退院できるだろうと言われた。


夕食後、一人で部屋で過ごすけど、記憶喪失だった時の記憶がないからか、イマイチ実感が持てないでいた。


どっきりだったりして?


本当は、昨日事故にあって、1日眠っていただけとか?


確かに、日付はあわないけど、それはみんなが口裏を合わせれば誤摩化せる。


そこまで考えで、笑ってしまった。


そんなどっきり、誰がするんだ・・・



でも、それくらい実感が無かった。



コンコン


ボーッとしていると、ノックする音が聞こえた。


「はーい。」



時計を見れば、18時過ぎ。思ったより早いけど、梨花か修ちゃんが来てくれたのだと思った。



でも、入って来た人物を見て固まった。


「光輝・・・」


驚いて固まる私を見て、光輝が笑う。


「ビックリした?

 実は、外のプレゼンに駆り出されてさ、そのまま直帰しても良いって言われたからそのまま来たんだ。」


にこやかに説明してくれる光輝だが、私には全然意味が分からなかった。


直帰しても良いと言われて何故ここにくるんだと。


でも、そんな私の戸惑い何て気にする風でもなく、光輝は私に近づいて来る。


「調子はどうだ?」


「へ?あぁ、明後日には退院できるだろうって・・・」


さっき先生に説明を受けた通りに答えると、光輝はちょっと眉間に皺を寄せた。


何で、そんな顔をするかは分からなかったが、光輝はすぐに笑顔になり、私の髪を梳いた。



「そっか、良かったな。」


そう言って、私の額にキスをしたのだ。



いやいやいや、ちょっと待って!!


今、キスしたよね?


「こ、光輝?」


「ん?」


私の頭を撫でながら笑顔で首を傾げる。


え?光輝ってこんなキャラだったっけ?



付き合っている時、確かに大切にしてくれていたとは思うけど、頭を撫でられた記憶なんて無い。



待って、記憶喪失で、その記憶が無いだけか?


いや、違う。前の光輝はこんな甘くなかったと思う。


混乱する私をよそに、光輝はもう一方の手で、私の手を握って来た。


「あ、あの光輝?どうして・・・」


その時、光輝の電話が鳴った。


「メールだ。」


そう言ってメールを確認した光輝は舌打ちをする。


「悪い、今日のプレゼンのメンバーと飲み会なんだ。

 もう行かなきゃ」


「あ、そうなんだ。」


聞きたい事は山ほどあるが、何て聞けば良いのか分からない私は、光輝を引き止められない。


「じゃあ、明日また来るから。

 お利口にしてろよ?」


そう言って、光輝は私の唇にキスをして帰って行った。



私は、考える事を放棄した。

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