もう一度君の笑顔を
コンコン


扉をノックする音で我に返った。


「は、はい。」


さっきの光輝の事もあって、内心どぎまぎしながら返事をすると、現れたのは梨花だった。


安心して、ため息をつく私に梨花が怪訝な顔をする。


「どうしたの?ため息なんか付いて。

 何かあったの?」


「りんか〜」


「何よ、情けない声だして。

 どっか痛いの?」


「違うよ〜」


私はさっきあった事を話した。


「つまり、中野さんが突然やって来て、キスして帰ったと。」


「うん。」


「友紀は、何で中野さんが来たのかも分からず混乱していると。」


「うん。」


「何で、聞かなかったの?」


「何か、飲み会があるとかで、混乱してるうちに帰っちゃった・・・」


「で、明日また来るって言われたのね?」


「そうです・・・」


「「はぁー」」


二人のため息がかぶった。



「やっぱり、同情かな?」


ボソッと言った言葉に、梨花は目を見開く。


「同情?」


「そう、誰かに記憶が無いのを聞いて、光輝に振られたことも忘れてベットで光輝が会いに来てくれるのを待ってる私に同情したのかなって。」


「振られたって、あんた・・・」


「あれは、私が振られたようなもんでしょ。」


「友紀・・・」


「きっと、光輝も罪悪感があったのかな?

 だから、罪滅ぼしに記憶がない私に優しくしてくれたんだと思う。」


「それで、キスまでする?」


「それは・・・・」


そう聞かれると返答に困る。



確かに、キスまでする必要あったのかな。



「でも、それ以外思いつかないもん。」



さっき、光輝に触れられたところが今でも熱い。


蓋をして、見ないふりして押し込めた感情が溢れ出しそうになる。



それを無理矢理押し込めて、気づかないフリをする。


梨花は、何か言いたげだ。


でも、私はそれを気づかないフリをする。



別れた彼女のお見舞いに来て、キスをする理由。



自分に都合のいい様に考えてしまいそうになるのを無理矢理押し込めた。


梨花も、記憶が戻ったばかりの私に気を使ってかそれ以上は何も言わなかった。



沈黙が流れる部屋。


「あの、馬鹿男。」


膝を抱えて、ボーっとする私に梨花の言葉は聞こえなかった。
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