雪桜満開
出会い

ピピピピッ…ピピピピッ…


耳障りな音だ、なんだこの音は。


まだ覚醒しきってない意識のまま俺はこの不快な音を出している物へと手を伸ばす。


よくよく考えてみればこの音には、ほぼ毎朝と言っていいく困らさせられている…


そんな俺の心情を知ってか知らずか、今日もコイツは俺の安眠を妨げる。


ピピピピッ…ピピ……


デジタル時計の頭にあるスイッチを強めに叩いてやる。


時計は6時を示したまま不快な音を出すのを止めた。


強めに叩いたに意味がないわけではない…いや、勿論俺の安眠を妨げたことに関しての恨みが無いわけではないが…


むしろその恨み辛みを毎朝この時計にぶつけていたせいでこうなってしまった。


つまりスイッチの効きが悪くなってしまっているのである。


「お陰様で毎日しっかり目がさめる…」


つい口に出して愚痴ってしまう。この無機物に伝わるはずあるはずないとは分かっているにも関わらず…


いや、訂正しようか。


俺は、『もしかしたらこの無機物に言葉が通じる可能性があるんじゃないのか?』なんて非現実的なことを万が一ならあり得ると思っている。


…思っているが、そんな考えあり得ないことは分かっている。


俺は今年から高校1年生。いわゆる“中二病”で押し切るには難しい歳頃の健康的な男子だ。


だが俺は非現実的なことを信じるに足る理由がある。


年を重ねるごとに非現実に対する願望、期待は薄れてきている…だがまだゼロではない。


さっきの通り万が一を信じているのだ。


何故なら…


「ん?」


ふとさっきアラームを止めた時計が目に入った。


7時…


「しまった、約束に遅刻するじゃないか」


集合は07:30。これから急いで用意をすればなんとか間に合うか…


全く、なんのためにアラームをセットしてと思ってるんだ。


未知との遭遇について考えるために早起きしたわけではないぞ、俺は。











よし、完璧だ。


12月となるとやはり寒さが堪える、これだけの厚着をしておけば問題はないな。


時間は…07:25。


集合場所までに徒歩で10分といったところか…


ダッシュだな、これは。











「はぁ、はぁ、はぁ…」


時間は…07:32、ギリギリ遅刻してしまったか…


加えてこの厚着、完全に判断を見誤ってしまったようだ。


走ることを見越すのならもっと軽装にするべきだった…


いやしかしだ。俺の悪いところも多々あるとはいえ、もっと悪いのは他の奴らだ。


なぜなら、まだ誰も居ない。


「はぁ…俺がここまで全力だというのに、あいつら一体なにしてるんだ…」


現在地、いつもの公園。
現時刻、07:40。
周りに人は…朝の散歩を日課としている年を召された方約2名ほど。


俺と約束をしたはずの友人たちは姿形も見えない。


こうなれば俺としては友人から知人へのランクダウンも辞さない覚悟だ。


最近の学生達であればこういった時携帯電話を使って連絡するのだろう。


だが俺は携帯電話を持っていない。


最近ではスマートフォンだのiPhoneだのパッドだのなんだのいろいろ出ているが、人間やはり行き着く先はアナログだ。


これは人類が結果的に見出す答えだ、間違いない。


ゆえに俺がスマートフォンだのを使えないのは仕方がないことなのだ。


よく俺は機械音痴だと皆に言われる。


だがそんなことはない。時計だってデジタルだ。


冷蔵庫だって、炊飯器だって、電子レンジだって使える。


全く、それなのになぜ俺は機械音痴扱いされなければならないんだ…?


「お、ずいぶん早いな、翼。また宇宙人でも探してたのか?」


ベンチに座り込んでいた俺の前に、よく知った顔の男が立ち塞がる。


金髪、ピアス、おまけに機能性を考えていない自分の趣味でしか選んでないようなだらしのない服。


コイツは間違いなく俺の友人、天野 光(あまのひかる)だ。


「冗談はよせよ、光。俺は怒っているんだ」


「あら、そりゃまたなんで」


「わからないか」


「わからないねー」


「ならお前は今日から知人へ降格だ」


「あっそ、んじゃ明日友人に昇格でよろしく」


ヘラヘラとした態度で俺の言葉を聞き流す…いつものことだが、これで案外いい奴だ。


俺が言う非現実なことにごく自然に共感、反発、もしくは爆笑してくれる。


良くも悪くも感情に素直な人間、といったところだろうか。


「もう1人はどうした」


「それがよ、なんか急で1人人数が増えたかなんかって連絡あって…」


「増える?そいつもあの高校を視察しに行くのか?」


そう、今日の予定とは俺たちが入学希望している学校を視察しに行くことだ。


今日で3回目になる。顔を覚えてもらって推薦で入ろうという考えだ。


もっとも、光やもう1人の凶暴な女から言わせれば逆効果らしいが…わざわざ付いてくるってことは、本心では俺の考えに賛同しているに違いない。


「ごめんごめーん、待った?」


その凶暴女がこいつだ。
名前は橋本花梨(はしもとかりん)。
とにかく凶暴。近寄るべからず。


「待ったに決まっているだろう。今何時か分かるか?08:00だぞ。約束から30分たっている」


「ハハハ、ごめんごめん。この子誘いに行ってて遅くなっちゃって…」


「この子って…その後ろにいるちっちゃい子のこと?」


光が食いついたということは、花梨の後ろにくっ付いている小柄な子は女か。


「あ、あの、私一緒に来ても良かったのでしょうか…」


「ああ、問題なんてないさ!むしろ歓迎!可愛い子には光を会わせろってことわざもあるぐらいだから!」


「そんなことわざないし、そんなことより先に自己紹介でもしなさいよ、このばか!」


がつん、と花梨の鉄拳制裁。


光は頭を抑えて悶絶。


もはや様式美だ。


「えっと、先に私が…白浜 沙織(しらはまさおり)です。花梨先輩たちの一個下で、今年から三年生です。」


ぺこりと頭を下げる少女。


花梨の後輩か…しかし今日は俺たちの志望校の視察のはずなんだが…一個下の白浜には関係ないんじゃないか?


「はー、近頃の嬢ちゃんにしては立派なもんだ。大和撫子ってやつかな?あ、俺は天野光。んでこっちのぶっきらぼうが…」


「桜庭 翼(さくらばつばさ)だ」


「あ、はい!桜庭先輩のことは知ってます!」


「なに?俺のことを知ってるのか?なぜ?」


「あ!えーと、その、あと、な、なんでもないです!間違いです!」


「は?」


「翼のこと知ってて俺のことは知らないのか…」


「まあまあ光、沙織の御目当ては翼だから…」


「はあ!?翼が目当て?そりゃなんかの冗談だろ。あいつのどこに惹かれたってんだ…」
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