恋宿~イケメン支配人に恋して~



都会とは全く違う土地にある、小さな旅館。だけど、それひとつを経営することがどれほど大変か、どれほどの思いを持って彼や皆が働いているのか。

なにひとつ、知らないくせに。



「私、ここで沢山のこと教えてもらった。自分に出来ることとか、誰かのためのこととか……もっと沢山のことを知りたいって思う。だから、まだ帰らない。最後まできちんとやる」



自分に出来ること、誰かの笑顔の嬉しさ。それは、あの大きな街では知ることのできなかったこと。

ここに来て、この場所で、彼の言葉で変われたの。まだほんの少しの変化。だけどこれから、まだまだ広がる可能性。



「……可愛げなくて、ごめん。いつも素直になれなくて、慎のこと不安にさせてごめん」

「え……?」



真っ直ぐ目を見て言った私に、慎は驚き目を丸くする。



「慎がくれた言葉も気持ちも、本当はいつも嬉しかった。大好きだったから。……けど、今更だよね。日頃からちゃんと伝えておけば、こうはならなかったかもしれない」



今更後悔してもきっと遅い。謝ったって、本音を伝えたって、時間は戻らないし気持ちはまた近付かない。

だけどそれでも伝えたい。すべて、素直に。



「……今更なんてないよ。まだ遅くない、やり直そう。理子」

「……、」



『やり直すって道もありだろ』



わざわざ追いかけて来た彼からの、嬉しい言葉。それは千冬さんも、言っていた言葉。



後悔しないほうを選ぶの。私が自分の意思で、望む場所を選ぶの。

私の、こころは。



ふっと頭に浮かんだ景色は、慎と過ごした日々。それ以上に大きく、この場所で千冬さんたちと過ごした日々。




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