恋宿~イケメン支配人に恋して~
「じゃあ、俺が代わりに払うよ。貯金はたいて少し借りればなんとかなるから……だから、一緒に帰ろう?」
「……そんなこと、しなくていい。私と慎はもう他人だから」
「他人って……」
謝れば許すと思っていたのだろうか。『他人』としっかりと線を引いた私に、その瞳は悲しげに揺れる。
「……謝られても、浮気は浮気だから。やり直せないよ」
「あれは……彼女の相談に乗ってるうちにそういう空気になっちゃっただけで、流れっていうか」
「へぇ、流れで他の女の子抱けるんだ?」
話しながら思い出す、あの日の光景。自分以外に向けられた、慎の優しい声。
思い出す度苦しくて、考えないようにして逃げていた。だけど、今だけはきちんと向き合って。
「……あの子に『好き』って言われて一度は断ったんだ。けど理子の気持ちが分からなくて、それでつい」
「素直で可愛いあの子に揺らいだ、と」
「でも俺が本当に好きなのは理子だけなんだよ!?失くして気付いたんだ……だから、こんなところにいないで、うちに帰ろう?」
『こんなところ』、?
その一言に、耳がぴくりと反応する。
「……こんなところなんて、言わないで。皆や千冬さんがどんな気持ちで働いてるかも知らないで、勝手な言い方しないで」