恋宿~イケメン支配人に恋して~
ずらりと並ぶお店を見ながら歩いていると、何気なく目に入ったのは『おまんじゅう』の大きな文字が書かれた看板。
それを見上げたまま、つい足を止める。
「お饅頭屋……?」
「あぁ、温泉饅頭の店。どこの観光地でも温泉饅頭ってあるだろ?あれってここが発祥の地だからな」
「そうなんですか?知らなかった……」
「中でもこの三浦屋のは格別だな。食うか?」
小さく頷くと、千冬さんは慣れた様子で店員らしいエプロンをかけた中年女性に声をかける。
「こんにちは、ふたつ貰えますか」
「いらっしゃい!ってあら、新藤屋さんの千冬くんじゃない。なに、ついにお嫁さん出来たの?」
「違います」
笑顔でばっさりと否定する千冬さんに、店員さんは「冗談よー」と笑いながらお饅頭をふたつケースから取り出す。
「はい、2個で200円ね」
「どうも」
「あ、じゃあお金、」
「いい。これくらいついでだし出してやる」
バッグから財布を出そうとしたものの、千冬さんの言葉に手を引っ込める。
そして店員さんから受け取った平たく茶色いお饅頭を、「いただきます」とその場で一口かじった。
甘みのあるカステラのような皮と、対象的に控えめな味のしっとりとしたこしあん。
口のなかに広がるそれらの味と食感に、つい顔がほころぶ。
「ん……!おいしい!」
「だろ?やっぱりここのが一番。お客様にお勧めの店を聞かれたら、俺はいつもここを教えてる」
「おかげさまでうちも大繁盛!本当、新藤屋様々だわ~!」
うふふ、と笑って店員さんは次のお客さんへと接客にまわった。
『繁盛している』の言葉は冗談で言ったのだろうけど、人気なのは事実らしい。通る人皆が、匂いと店員さんの声につられて足を止めている。