ミントグリーン~糖度0の初恋~
駅前の大きな交差点。
これを渡り切ったら、この時間が終わる。
カイチくんはそれが名残惜しかったのか、行きは渡った長い横断歩道を使わずに、あまり利用する人がいない歩道橋に足を進めた。
階段を上りきって、陸橋部分の真ん中で手摺に両手をかけて下を走りすぎる沢山の車をぼんやり眺める。
下の道が都心の心臓部だともいわれる幹線道路だからかもしれないけど、継ぎ目なく流れる車のテールランプが光の帯を作る。
「俺たちの地元じゃ、こんな景色あり得ないね」
「うん」
私たちが育った街も交通事情が都会ほど恵まれていないから車移動がとても多い。
でも、こんな圧倒されるような光の帯はまずお目にかかれない。
「初めてこの歩道橋を渡った時、
あー、俺東京に来たんだわ…
って実感した。
車も人も多すぎて、こんなとこでやっていけんのかよ、って怖くなったな。
日吉はそんなことなかった?」
「あったよ」
カイチくんの左隣で何度も頷く。
「だよね?
俺は日吉と付き合えてればこの不安も分け合えたのかな?って思ったりもしたよ。
付き合ったらこういう景色を見ながら沢山思い出話したり、今の近況報告し合いたかったんだ…って。
友人としてだけど、今日日吉と沢山話せて本当に良かったよ。
長年の夢が叶った気分」
ふわりと微笑んで私を見つめるカイチくんに私の心がチクリと痛んだ。