リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【後編】
「あいつは、もともと営業にいたからな。そのころに、なにか聞いたんだろう」
「へえ。島野さんって営業にいたんですか」

初めて知った事実に驚きながらも、そういうことならと明子も納得したように頷いた。

「ああ。知らなかったのか? 島野は営業に5年か6年いてから、こっちにきたんだよ。もしかしたら、小杉と入れ替わりだったのかもしれないな」
「そうなんですね」

営業にいたころ、先輩社員から『システムの島野には気をつけろ』と何度も聞かされていたこともあって、島野もまた君島たちと同じく、入社時からシステム部に配属された生え抜きなのだと明子は思い込んでいた。
その割には、新人時代の記憶の中に全く島野がいないことが不思議だったのだが、君島の言葉で、ようやくその謎が解けたわねと、明子はその胸中で小さく頷いた。

「まあ、あいつは営業にも、今までコレが何人かいたしな」

そっちから話を聞いたのかもしれんが。
苦笑しながら言葉を続け、ピンと小指を立てる君島に「いましたいました、何人も」と、明子も笑いながら頷き返した。

「それにしても、なんで営業のほうから、話が出なかったんでしょうね」
「んー。小杉が営業に移ったころ、か……。ああ、あのころのウチの本部長と営業さんの本部長は、犬猿の仲だったな、確か」
「あー。会議中、罵り合っていたとか、そんな話がありましたね、そういえば」
「らしいな。よく牧野と大塚が揉めているところをみて、笹原さんがあんなのはまだ可愛いもんだって笑っていたからな、あのころは」

古い記憶を引っ掻き回して、入社当時のことを思い出した明子は、土建会社での打ち合わせに初めて顔を出したときの光景を思い浮かべて、苦笑した。


(どこにでも、いるもんなのね)
(ああいう人たちって)


ふむふむと頷きながら、なにかが閃いたような顔つきで明子は君島に問いかけた。

「もしかして、その件で招集が掛かったんですか?」

明子の質問に、君島は「あたり」と答えて小さく肩をすくめた。

「やっと、当事者全員揃っての話し合いの席が持てたと思ったら、なんかとんでもないクレーマーみたいヤツが出できたらしいぞ。どうにもならんと、笹原さんに電話でぼやかれてな。ちょいと知恵を出せと呼ばれた」
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