リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【後編】
「はえーな、お前ら」

明子と君島に朝の挨拶を告げるよりも早くそう言って、からかい交じりの軽い口調で「どんだけ会社が好きなんだよ」と言葉を続ける小林に、君島は「判ってないな。これは朝の逢引だ」と軽くノリで切り返した。

「なにが逢引だ。お前と小杉じゃ悪巧みの会合だろ。牧野邸に討ち入りする日でも決めてたか」

けけけと笑いながら席に着く小林に、明子は頬を膨らませて抗議する。

「ひどっ なんで、小杉が悪巧みですかっ まあ、討ち入りしてお灸を……」

据えてやりたいのは山々ですが……と、そう続くはずだった明子の言葉に被せるようにして、地を這うような明子の声に眉間にシワを寄せて顔をしかめた小林は、その理由を尋ねた。

「アッコさんや、どした、その声」
「教えませんっ」

抗議をあっさりと聞き流されてしまったことに、さらに頬を大きく膨らませて明子はそっぽを向くが、小林は明子のそんな態度に肩をすくめて「まあ、いいけどな」と応じた。

「どうせ、木村が騒ぐだろうし。しゅにーん、どうしたんですかーってな」

で、煩さに根負けして、どうせ理由を喋っちまうだろうしな。
それくらいは想定済みだと言わんばかりに得意げにそう告げる小林に、明子は肩を落としたうなだれた。
間違いなく、そんな展開になるに違いなかった。


(今日はおしゃべり禁止って紙に書いて)
(この子の机に張っておこうかしら)


本人には決して悪気はないのだろうが、大騒ぎしながら追及し続け、挙句、盛大に心配されてしまうとただの風邪があっという間にインフルエンザにされかねない。牧野からの「人間拡声器」と言う評は伊達ではないのだ。
困ったお口だわと、まだ主のいない隣の席を眺めつつ考えている明子をよそに、君島がガラガラ声の答えをさっくりと小林に教えた。

「うっかり、ソファーでうたた寝して、喉をやられたんだとさ」
「つまんねー。もう少し色っぽいことを理由しやがれってんだ」

鼻を鳴らしてそんな理由かと笑う小林に、他に言うことはないんですかと明子は胸の中で呟いて肩を落とした。

「まあ、気をつけろよ。具合が悪いなら休んでいいからな。お前、有給の消化率も悪いんだからさ」
「はーい」

ガラガラの声で口先だけの返事をする明子に、真面目に聞けと小言を言いつつ、小林は話題を変えた。

「昨日、亮一に会ったんだって?」

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