リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【後編】
「なんで、それ……」
「電話が来たんだよ。あいつから」
「知っているんですか?」

親しげな間柄を匂わせるようにその口ぶりに、明子は驚き交じりの声で小林にそんな確認をする。

「おう。牧野が酔い潰れたときなんか、昔はよく迎えてきてたしな」

何度か一緒に飲んだこともあるぞと、さらりと言いのける小林に、明子は「はあ、そうですか」と頷くしかなかった。


(もう家族ぐるみの付き合いなんだ、この人たちって)
(まあ、君島さんの奥さんのことを魔女なんて言ってるくらいだもんなあ)
(なるほどねえ)
(あー。昨日、島野さんのことも話していたっけ)


彼らが会社の先輩後輩と言う枠を超えた付き合いをしていることは、なんとなく理解していたけれど、それぞれの家族とさえも親しくしているとは思っていなかっただけに、その親密ぶりに明子は内心驚いた。

「どこで会ったんだ、あいつと?」
「病院で会ったんだとよ」
「へえ。で、なんだって?」
「ん? 小杉のこととか、いろいろな」
「私? 私のこと?」

始まった君島と小林の会話を聞くともなしに聞いていると、突然、自分の名前が挙がり、明子は目を丸くしながら小林を見た。
そんな明子の反応に、小林は大きく息を吐き出して、明子をじろりと睨みつけた。

「そんな驚くことないだろ。兄貴の嫁さんになるかもしれねえ女に、興味がねえわけねえだろ」
「へ? いや、あの……」
「今さらワタワタすんな、覚悟決めろや、お嬢さん」
「ああ。そう言えば、常務相手に結婚宣言したそうじゃないか、牧野」

笹原さんが笑っていたぞと面白そうに言う君島に、明子は頬をぷっくりと膨らませて見せた。

「もう、ひどいんですよ。事後承諾で悪いけど、暴走したから話を合わせろって」

何様ですか、あの人はとむくれる明子に、「いいじゃねえか、もう、そういうことで」と小林はいかにも面倒くさそうな口ぶりで明子を諭した。

「もう、ぐちゃぐちゃ面倒なこと言ってねえで、決めちまえって。そうつもりはあるんだろ?」
「……たぶん」
「なんだ、その、多分って言うのは」
「いや……まあ、いろいろと、その……考えなきゃいけないことが、あるなあと」

昨夜、帰宅してからどっぽりと飲み込まれてしまった底のない泥沼に、またずるずると堕ちてしまいそうな感覚を明子は覚える。
そんな明子を知ってか知らずか、君島の声が明子を救った。
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