愛結の隣に悠ちゃん

「なんだよっ、お前っ」

一人の男子が愛結に気づいて言う。
愛結は女の子の前に立ちはだかった。

「女の子一人にいやがらせなんてどういう神経なのっ!だめなんだよっ」

きっ、ときつく睨み付けて愛結が言う。
その言葉に男の子らが一瞬怯む。

「うるさい!お前に関係ないだろ!」

男の子が愛結の肩を突けば愛結がよろける。

「……!っ、わあ」

愛結が転ばずにその場で踏みとどまった瞬間、男子が壁に背中を強く当てるほどの勢いでぶっ飛んだ。

悠人が思い切り男子を蹴飛ばしたのだ。

その状態を見ていた男子数名が怖くなって走って逃げ出した。

「何だよお前っ……この化け物がっ!」

壁に打ち付けられた男の子が負け惜しみを言う。
それを気にすることなくそっぽを向けば女の子の方にくるりと振り返る。

「大丈夫っ?怪我、してない……?」

にこりと微笑みながら女の子に尋ねると女の子は相変わらずきょとんとしていて返事がない。

「愛結、その子……耳、聞こえてない」

悠人がボソッと愛結に耳打ちをする。

「えっ!?え、ど、どうしよ……」

悠人に困ったように尋ねる愛結。
すると、悠人がそっと目を閉じた。

「悠ちゃん……?」

きょとんと首を傾げて悠人の方を見る。
にこりと笑って愛結の方を見た女の子。

「遠山 花(トオヤマ ハナ)ちゃんって言うんだって」

目を開けて愛結に笑って言う悠人。
何が行われたのか分からないままの愛結。

「三つ目の神社の神様みたいに、頭に言葉を送ったの」

にこりと笑いながら愛結に説明すると、納得した表情で笑う。

花が携帯電話を取り出せば画面に“あなたの名前は?”と、書いて見せる。



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