愛結の隣に悠ちゃん


「悠ちゃんっ……!」

何度も悠人の名前を呼ぶ。愛結のそばには小さな女の子がいて女の子は睨むように悠人のことを見る。

「……お兄ちゃん、このお姉ちゃんのこと好き?」

純粋な目をして尋ねる女の子にぽかんと口を開けてしまう悠人。

「ねぇ、どうしてお姉ちゃんのこと傷付けるの?」

「ママと……一緒になっちゃう……ママは……パパが他の人といてもっ……何も言わなくてっ……最後にはみぃとパパを残してどっか行っちゃっ単だもんっ……」

“お姉ちゃんもどっか行っちゃうって思った?なら、大事にするんだよっ”と元気よくそれだけ言えば静かに女の子は姿を消した。

「愛結……どうして、怯えてるんだ?」

女の子が嫌がらせをした訳でもないのに愛結は何故か体を小刻みに震わせて怯えている。
それを悠人は見逃さなかった。

「……女の子の声がっ……雷の音に、聞こえたのっ……」

愛結は昔から雷が大の苦手だ。

小学生の時、一人で悠人を待っていた時に、突然の雨に遭ってしまいそれが雷雨に変わり、ひとりぼっちでいることも相当辛かったのに、雷が鳴り続けている間は悠人が迎えに来てくれなかったからだ。

『愛結ちゃんにとって、嫌なことだったんだよ。昔、神様に聞いたことがある。愛結ちゃんは、嫌なことを言われると自分の嫌いなものに変えてしまうんだよ』

花が悠人の頭の中に言葉を送る。
それに納得すればこくんと頷き愛結をそっと優しく抱き寄せた。

「愛結……」

「やっ、やあっ!」

まだ少し混乱していて首を横に振り悠人を避けようとする。
しかし、さらに強く抱き締める。

「愛結っ!俺だ……愛結のこと、守らせてっ……ごめん、辛い思いをさせちゃって……」

愛結の耳元でゆっくりと話す。
話している途中、拒まれてずっと体を押されていたが、その言葉を愛結が聞けば、愛結は大人しくなる。



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