愛結の隣に悠ちゃん

「このお札はお嬢さんが困ったときに俺が出てくるようになってる。で、今俺がいるってことは……どこかでお嬢さんが俺に助けてほしいってお嬢さんの何かが思ってんだよ」

にこりと笑いながら説明する神。

「え、でも……私……あなたのことなんて……」

「……しゃべり方や反応からすると……止まってた記憶は進んでるみたいだな停止したときに俺と出会ったこととなると、遠い記憶になるわけだ」

神が顎に手を添えて呟く。

ますますわけが分からずにきょとんとするしかない。

今の状況にさすがの神も頭を抱えるしかない。

「……んー、何をいったらいいのか俺にはわからないけど、俺の知ってる昔話をする。お嬢さんの隣にはうるさい奴がいてさ。そいつは俺がケーキ食おうとしたら「イチゴが好き」」

神の話を遮って言う。
それは、頭のなかで浮かんだ言葉だ。

自分のことでもある。しかし、私は甘いものは好きだが、酸味の少しあるイチゴはケーキと一緒でなければ食べようとは思わない。

「……そいつが止めたわけ」

神が引き続き話を続ける。

「そのケーキはお嬢さんのだから、ってな。あんな必死にキレないだろ、普通……俺は、そんだけお嬢さんのこと思ってんだなって思ったよ」

愛結のなかにはなにかは分からないが人の形のシルエットが浮かぶ。

誰だろう……。

『愛結……』

愛結の頭のなかに自分を呼ぶ声が聞こえる。
その声は懐かしい気がする。

『愛結っ！危ない！』

頭のなかに思い浮かんだのは自分のすぐとなりにあるクラクションを何度も叫ばせている大きなトラック。

あ、この声って……。

「悠ちゃんっ……財前……悠人……」

忘れるはずのなかった人の名前を今、ようやく思い出せた。

嬉しそうに愛結は神の方を見て悠人の名前を言う。