宇佐美兄妹の愛と嘘。
汐音の場合。
部活の朝練が毎朝あり、妹の柚月に起こしてもらい朝食まで作ってもらって家を出るのが日課の俺。
柚月はいつも頑張ってくれてすごくありがたいと共にすごく申し訳ない。
電車に揺られながら
(はぁ、もう俺も高2になるんだしな。
しっかりしないと!明日からは自力で起きよう)
と、心に決めたのはもう何回目だろうか。
柚月に
『明日からは起こさなくていいから!』
と宣言する度にバスケ部顧問の柏木先生に怒られてきた。
黒いイヤホンを耳に当て洋楽を流す。
こんな早朝でも電車内は結構混んでいる。
(くさ、おっさん、くさ!)
目の前の、頭が輝かしい酔っ払ったおっさんから漂う酒か何かの異臭に顔をしかめ、目的の駅をじっと待つ。
~次は○○駅○○駅お出口は左側です~
やっとこの場から離れられる!と心の中でガッツポーズをし、降りようと動いた時だった。
俺とは反対方面を向いていたおっさんがうずくまり肩を震わせている。
放っておくのも良心が痛むので
「大丈夫ですか?」
と微笑みながら心配そうに声をかけようとしたが…
『ぐおぇっおえっ』
俺の鼻腔を胃液の匂いがツンと刺激する。
おっさん…吐いてたー…
呆然と突っ立っているとプシューと機械的な音。
ハッと気がついた時にはもう遅かった。
今日は柏木先生に怒られる日だー…

一応、駅員さんに事情を説明し、何とか対処してもらうよう任せ、俺は次の駅で降りた。
柏木先生に電話をし、一部始終を話してみると意外なことにも先生は俺を労ってくれた。
柏木博之(カシワギヒロユキ)先生は名前から某アイドルグループのメンバーからあだ名を付けられ、【鬼のゆきりん】と言われるほど生徒に恐れられているバスケ部顧問の体育教師だ。
人を褒める、労るなんてことは本当に滅多にない為、嬉しい反面何か企んでいそうでこわい。
だが、学校についた俺はもっとうれしい報告を受けた。
冬にあるバスケの大会でスタメンに選ばれたらしい。
遅れて体育館に入った時ちょうどメンバーを読み上げているところだったのだ。
遅刻しても怒られないのは日頃の俺の行いがとてつもなく良いからだ。
いや、ほんとに。
まぁその為にはずっと仮面をかぶり続けているのだが。
朝練が終わり教室へ向かう。
俺が歩くたびに廊下の脇から女子のひそひそ話や宇佐美くんだ!というような叫び声まで聞こえてくる。
良い人だと思われて損することは何もないのでそんな女子たちには微笑みかけ挨拶をしていく。
もちろん、男子の反感も買わないようにふざけや趣味にも付き合ってやる。
また先生方にはずっといい子ぶり、成績は常にトップを譲らないでいる。でも謙虚さを忘れずに。
こうして、2年で最高の高校ライフを創りだした。
だが、俺のそんな順風満帆な高校ライフを脅かす人間が現れた…
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