キミの心を奪いたいんだ。
 一ヵ月前、Jリーガーのタツキが所属する滋賀レイカーズのJ2首位攻防戦を応援に行った帰り、俺は報われない想いを抱え続ける悲しげなアオイを見ていられなくて、つい「アオイの心をタツキから奪う努力をする」なんて言ってしまった。彼女の心がほしいのは本当だ。だけど、どうすれば手に入れられるんだろう。人を想う気持ちが簡単に消えたりしないことは、よく知ってる。俺自身、彼女のことを六年近く想ってきたんだから。

「あ、あそこの駐車場、空きがあるみたいよ」

 信号が青になって再び走り出したとき、アオイが左前方を指さして言った。

「黒壁スクエアにはちょっと遠いけど、ほかが満車だったら困るもんな」

 俺はウィンカーを出してその駐車場に愛車のSUVを入れた。窓を開けて係員に駐車料金を払い、空いている区画に駐める。

「お母さんとお父さんのお土産に、ガラスのおちょこを買いたいんだけど、付き合ってくれる?」

 助手席から降り立ったアオイが言った。

「いいよ。それじゃ、先にショップを覗いてみようか」
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