キミの心を奪いたいんだ。
 俺は車をロックすると、駐車場の出口に向かった。まだまだ春は遠く、今日の長浜も寒い。ふとアオイの手を握ろうかと思ったけど、彼女はファーのついた黒の手袋をしていた。俺は伸ばしかけた手をジャケットのポケットに突っ込む。

 古い町並みが趣深い長浜の黒壁スクエアを散策しながら、ガラス製品を扱った工房やショップを二人で覗いた。

「あ、これかわいいね」

 工房に併設されたショップでアオイが手に取ったのは、半透明な水色が美しいガラス製のおちょこだ。

「アオイの父さんは日本酒が好きだもんな」

 俺は彼女の肩の上から覗き込んだ。小学校からの幼馴染みだから、彼女の父さんのことは俺もよく知ってる。

「そうなの。たまには控えてほしいなんて言いながら、おちょこをあげるなんて矛盾してるかな」

 アオイが笑いながら顔を上げたので、互いの鼻先が触れ合いそうになった。アオイが驚いたように、パッと顔を正面に向ける。

 俺だって驚いた。あのままキスができそうなくらいの近さだった。顔が赤くなるのをごまかすように口元に手を当てながら、俺は言う。
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