涙がこぼれる季節(とき)【完】
「……『修太郎』って、長いから――私は『修ちゃん』て、呼ぶね」


男は上目遣いに弱いというが、それは真実だった。


水沢に――好きな子にそんな目でみつめられて、名前を呼ばれて。


今にも倒れそうなぐらい、クラクラした。




――ワン、ワンっ。


犬を連れたおじいさんが通りかかり、2人だけの夢の世界から現実に引き戻された。




そして、けっこうな時間、太陽の光と熱気にさらされていたことに気がついた。


これ以上いたら、本当に倒れてしまう。


「送って行くよ――一緒に帰るの、最後じゃなくなったんだよね?」


確認もかねて言うと、水沢――いや、結衣の顔がほころんだ。

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