涙色に染まる鳥居の下で
優子
 家の中を明るい空気が包んでいる。
 今年はずっとこんな雰囲気だ。
 ほんと、何年ぶりだろう……こんなに楽しい気分で過ごす日々は。
 二人を亡くしたことによる心の傷は完全には癒えていないけれど、私は再び前向きに生きる希望を取り戻し始めていた。
 正也さんと圭哉君のお陰で。

 まさか、地主神社で落としたハンカチを私に届けてくれた正也さんと、あのあと料理教室でばったり顔を合わせるだなんて、思いもしなかった。
 本当に、運命とは不思議なものだ。
 ハンカチの一件のお礼を再び言ったあと、私たちは仲良くするようになった。
 私が数年ぶりに心からの笑顔を見せられるようになったのも、正也さんのお陰だ。
 正也さんには圭哉君という連れ子がいたけど、圭哉君も父親譲りの温厚で優しい人だったので、私はすぐに打ち解けることができた。
 奈津美もあまり時間をかけずに、正也さん、圭哉君と仲良くなったみたいだ。
 そして交際から一年後……正也さんと私は、結婚することに決めたのだった。
 トマトも、正也さんと圭哉君にすぐに懐くようになり、私たちは昔からの家族のように仲睦まじく暮らしている。
 そういえば、トマトがまだ1歳のときにお別れとなった、武文と文彦ともトマトは仲がよかったっけ。
 ほんとに人懐っこい子だから。
 そんなトマトも、今では壮年期に入っているはず。
 人間の年齢でいうと、圭哉君や奈津美よりも何倍も年上かな。
 
 もちろん、武文や文彦のことを忘れたわけではない。
 しょっちゅう思い出しては胸を痛めているけれど、下ばかり向いていてはあの二人にも叱られてしまうだろうと思うと、心を奮い立たせることができた。
 正也さんも圭哉君もとても良い人なので、武文と文彦の命日には、奈津美や私と一緒に仏壇に手を合わせてくれている。

 そういえば、正也さんと圭哉君はそろって左利きのようで、右腕に腕時計をしている。
 利き腕って遺伝するものなのかどうかは分からないけど、身の回りに左利きの人が少ない私にとっては、やけに新鮮に思える事実だった。
 武文や文彦も右利きだったし、左腕に腕時計をしていたから。

「母さん、どう思う?」
 圭哉君が聞いてきた。
「え? 何が?」
 何の話かさっぱり。
「もう~。お母さん、全然聞いてなかったでしょ」
 呆れたように言う奈津美。
「まぁまぁ、いいじゃないか。誰だって考え事をするときくらいあるさ。でね、優子。今度の日曜に、みんなでどこかに出かけないかって話。優子はどこがいい?」
 正也さんは、いつも通り鷹揚な態度だ。
 またみんなでお出かけするんだ……すごく楽しそう!
 私はウキウキしつつ、行きたい場所を考え始めた。



                 【完】
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