『好き』と鳴くから首輪をちょうだい
もぞりと体をうごかすと、抱きしめられる感触があった。
力強い、逞しい腕。広くてがっしりとした胸。
私のふわふわの髪に顔が埋まって、柔らかな吐息を感じた。


……達也?


まさか。だって達也は松子のところへ行ってしまった。
私の元へ戻ってくるなんて、あるはずがない。
それならば、これは夢と言うことだろう。私ったら、寂しさの余りリアルな夢を見ているのだ。

でも、夢でもいいや。

これだけリアルなら、夢で上等だ。

私、寂しさと悲しさの果てに夢を緻密にするという技術を身に着けることができたか。なんて逞しい。
思わずクスクス笑うと、抱きしめてくれていた腕が微かに揺れた。
それから、「ん……」と吐息混じりの声が降ってくる。


……ん?


今の声は、現実の私の鼓膜を揺らしたと間違いなく感じた。
さすがに、夢ではない。

あれ? そういえば、私っていつお布団に入ったんだっけ。

確か眞人さんのお店のお手伝いをしていて、ご飯食べさせてもらって。
それから眞人さんの家に住まわせてもらうことになって、梅之介が怒って。
二人でビールを飲み交わして……。
ええと、それから、記憶があやふやだ。どうしたんだっけ。ええと。


「ん……む」


低い吐息に、再び鼓膜が揺れる。
これはもう、寝ている場合ではない。
重たい瞼をこじ開けてみると、胸元ににょっきりと腕が伸びているのを確認した。


「ん? うわ」


ぐりんと振り返って見て、息を飲んだ。
驚くほど近くに、すやすやと心地よさそうに眠る眞人さんの顔があった。


「うん」


どういうわけだか、とりあえず頷いていた。
うん、眞人さんだわ。こんなにかっこいい顔を見間違える訳がない。
でもどうして、私と一緒に寝てるんだろ?


「あ⁉」


もしかして! と血の気がひいた私は、布団を捲り、自分の体を見下ろした。
普通に、服を着てる。というか、きっちりパジャマを着てる。ごそごそして、下半身も確認してみる。うん、しっかり履いている。

だよね。全然、そんなことをした記憶がないもん。
しかし、眞人さんと一緒に布団に入った記憶もないわけで……。


「あ、いや」


ううん? と考え込む。
寝起きな上、大量に飲んだお酒に侵食されている脳がのろのろと動き始める。
細切れの記憶をゆっくりゆっくり紡いで一本の糸にしていく作業は酷く根気が必要だった。


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