『好き』と鳴くから首輪をちょうだい
「ああ」


そうだ。
すごい量を飲み、酔っぱらった私たちはそれでも最低限の片付けを終え、交互にお風呂を使った。
お風呂に入っている最中、大きな声で歌を歌っていたら階上から梅之介に「黙って入れブス」と怒鳴られた。

それから、さあ布団を敷いて寝ようというところまできたのだったが、私はそこで急に面倒になって、もうここで寝ちゃえと廊下に寝っころがったのだった(最低すぎる。何を考えていたのだろう。何も考えていなかったに違いない)。

廊下のど真ん中ですうすうと眠りにつこうとしていた私に気が付いたのは、私の後にお風呂に入っていた眞人さんだった。


『何やってんだ。布団いけ、布団』

『お布団敷くのめんどいれす』

『こんな所で寝てたら凍死するぞ』

『今更お布団入っても寒いれす。もうここでいいれす』


うん、そうだ。そうだった。思いだす作業がだんだん辛くなってきたが、私はそんな馬鹿な事を言って廊下にへばりついていたのだ。


『仕方ねえな。布団敷いてくるから待ってろ』


眞人さんが布団を敷いてくれて、私を呼びに来る。
そこまでしてもらって尚、私は動かなかった(馬鹿にもほどがある)。


『凍えてからだがうごきません』

『こんな所で寝てるからだろうが』


はあ、とため息をついた眞人さんが、私をひょいと抱きかかえてくれた。
ひょい、だった。
いとも軽々と私をお姫様の如く抱きかかえた眞人さんは、しかし王子さまの表情を浮かべてはくれなかった(当たり前である)。


『うえ、冷え切ってやがる。ほら、布団入れ』


顔を顰めた眞人さんが布団に私を放り込んでくれたのだったが、ここで私は最大の阿呆な発言をした。
さすがにこの部分の記憶は、お酒の力でデリートしていて欲しかった。
思いだしてしまう自分が憎らしくも情けない。


『眞人しゃん。一緒に寝ましょう』


自室に戻ろうとしていた彼の服の裾を掴み、私はそう言い放ったのだった。


『は?』

『寒いので、一緒に寝ましょう。そのほうがあったかいれす』

 
私は裾をがっしと掴んだまま、言い募った。


『誰かと一緒に寝た方があったかいれす。それに、私はそっちの方がよく寝れるのれす』

『馬鹿か。もう少し考えて物を言え』

『はい、私は馬鹿れす。でも、寝るだけれすよ? いわば、湯たんぽみたいなものじゃないれすか』


さあ、さあどうぞ、と私は彼を引く。

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