『好き』と鳴くから首輪をちょうだい
街路樹を彩るイルミネーションの光を受けて、粉雪が舞う。
温かそうなコートを着てふわふわのマフラーを巻いた女の子が、隣を歩く男の子に「雪だよ」なんて可愛く言って、微笑み合っている。

メリークリスマス。
今夜はホワイトクリスマスっていうやつだね。
聖なる夜に清らかな雪。ああ、神様ってなんて粋な演出をするんだろうね。
この夜、どれだけの人が愛を囁き合い、温もりを分かち合っているんだろう。

クリスマスムードが限界まで高まった、十二月二十四日の二十二時。
私は朽ちかけた木製のリヤカーをギシギシと引きながら街中を彷徨っていた。
積み込まれているのは私の洋服やバッグ、歯ブラシやメイクボックスだ。


「重……」


タイヤの軸がおかしくなってしまっているリヤカーは思うように進まなくて、無駄に力がいる。
どうせ行く当てもないのだから止まってしまえばいいのだろうけれど、私は足を止めることができなかった。
この煌びやかなムードから逃げ出したくて。いや、この残酷なまでに哀しい現実から逃げ出したくて。


「う、う……」


涙は頬を滝のように伝い、鼻水まで垂れている。噛みしめた唇からは嗚咽が零れた。
顔をぐしゃぐしゃに歪ませて、みっともなく泣き声を洩らしながら、私は歩き続けた。

 
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