On Your Mark
運命を決める者
女の子を運び終わり、僕たちはそれぞれに考え事をしているかのように黙り込んでしまった。



一体、何故こんなところに普通の人間ではない女の子が倒れていたのだろう。

第四防衛ラインは三十年の間、両国とも誰も踏み入れなかった不毛地帯。

それなのに、何故・・・



今日の食事当番であるイビルの調理する音が、軽やかに建物に響き渡る。

もともと、学校だったようだが、三十年も人が踏み入れていないともなれば老朽化は否めず、風が吹き抜ける音などしょっちゅうで、どこかで何か音がすれば全体に響き渡るようなところだった。

住めば都と言うが、ここばかりは都になれるような気が一切しない。

この季節はまだいいが、このまま配備され続けて寒い季節にでもなったときのことを考えると、ため息しか出てこなかった。


「おい、レイ。

今日は洗濯当番なんだから、少しは纏めておけよ」


調理室からの声は廊下で外を見ている僕を通り抜け、その先の教室で寝ているレイにまで届いたはずだ。

レイはその教室が気に入ったようで、見張り以外は大抵そこにいることが多い。



普通にしているようで、二人とも女の子とこれからのことを考えているのだろう。

長く続く沈黙の時間が、それを表しているようだった。
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