心の裏側と素肌の境界線を越える為に
激しくビートを刻む。

音が爆発するのではなく、弾むのだ。

聴いている人間の体が、飛び上がりそうになるくらいのスウィング感のあるビートは、

心も弾ませた。



「いいねえ…。彼女」

スタジオ内でドラムを叩く美佳の音を、ブース内で聴いている2人の男。

「拾いものだよ」

興奮気味に話す初老の男に、まだ二十代後半のプロデューサーが頷いた。

「偶然、彼女が叩いていたバントのテープを聴きましてねえ」

人差し指で眼鏡のズレを直すと、プロデューサーは美佳をじっと見つめた。

「今の若い子…いや、日本人のドラムには、あのスウィング感がない。これは、天性のものです。努力で、どうなるわけでもない」

プロデューサーはにやりと笑った。
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