心の裏側と素肌の境界線を越える為に
身を屈めながら、素早く脱出するという技を初めて使った俺は、

にこにこしながら、片桐に近寄った。

片桐は少しため息をつくと、

「いつのまに…」

呆れたように、俺を見た。

そんな表情も、俺は愛しい。


にっと子供のように笑うと、俺は片桐の手を取った。

「いっしょに帰ろう!」

駅へと向かう正門ではなく、裏口へと片桐を導いていく。


「まったく…」


嫌がるかな…と心のどこかで、そう思っていたけど、

素直についてくる片桐がさらに、愛しかった。

嫌々でもない。

口では少し文句を言ったけど、笑顔だった。

俺は手を引きながら、ずっと片桐のことを思っていた。

浮わついた気持ちではない。

俺といて、彼女に楽しく感じてほしいだけだった。
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