心の裏側と素肌の境界線を越える為に
練習は続いた。

たった一曲の為だけど、美佳を筆頭にバンドメンバーの好意により、練習時間はたっぷり用意してくれた。

初めて合わせてから、1週間が経った頃、俺の歌に変化が表れた。

音と歌声が一体化を持ち…さらに、それらが混ざり合い、一つの塊…つまり、曲になったのだ。


「フウ〜」

熱気を帯びたスタジオ内で、俺は額から流れる汗を拭った。

演奏は、もう完璧に近い。

あとは、本番で緊張しないことぐらいだ。


「お疲れ様」

ジョリーの練習が終わった俺が、スタジオから出ようとしたら、

ドラムセットの中から美佳が声をかけてきた。


「太一!」

「うん?」

俺は、ドラムセットの中を見た。

何か言いたげに、少し口を開けているのに、美佳は言葉に出せなかった。
< 206 / 252 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop