心の裏側と素肌の境界線を越える為に
俺を見つめる美佳の横を、通り過ぎる片桐。

その片桐の姿を、目を見開いて見送る俺。

そんな俺の表情に気付き、少し悲しげな目をする片桐。

だけど、片桐の顔など…俺の目には映っていない。


だから、俺は…片桐が視線から離れると、

思わず手を伸ばしながら、声をかけた。


「片桐!」



俺の声に、片桐の足が止まる。

ゆっくりと振り返る片桐と、道を開けるかのように…顔を伏せる美佳。


「何?」

初めて聞いたかのような…透き通った声に、

俺は唾を飲み込んだ。


本当は…、

いっしょに帰ろうと言いたかった。

だけど、

片桐の顔に見つめられた瞬間、

出た言葉は…


「気を付けて、帰れよ」

だった。
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