婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
時計の針が12時を回ると、夜の集いはお開きとなった。

私は自室に戻ると、早速バスタブにお湯を溜める。

なんと各部屋に天然温泉がひかれているそうだ。まったく、どこまで贅を尽くしているのだろう。

髪と身体を念入りに洗うと、ゆったりとお湯につかり温泉を堪能する。

長湯でのぼせそうになってしまった。

お風呂から上がると、お気に入りのピケのルームウェアに着替えた。

ドレッサーの前に座り化粧品で肌を整え、ドライヤーで髪を乾かしていると、スマホが振動する。

葛城からLINEが届いていた。

『俺の部屋くる?』

私は即座に「いかない」と一言だけ返信する。

相変わらずふざけた男だ。私はフンと鼻を鳴らす。

その瞬間、部屋のドアがガチャリと開いた。

「何なんだよ!この返信は!」

葛城が勝手に散らかった部屋へズカズカと入ってきた。

「ちょっと!何で勝手に人の部屋へ入ってきてんのよ!しかも鍵掛けたハズなんだけど」

葛城はニヤリと笑い、手に持っていた鍵を見せる。どやらスペアキーで開けらしい。

「ったく、何考えてんのよ?!」私は不愉快そうに眉根を寄せた。

しかし葛城は出て行く気なんてサラサラないようで、ベッドに腰掛けた。

もう、こうなったら私が何を言っても無駄だ。

葛城もお風呂に入ったようで、前髪をおろして幼くなっていた。眼鏡にスウェット姿というくだけた格好も新鮮だ。

「しっかし汚い部屋だなぁ」葛城がぐるりと私の部屋を見渡す。

トランクの上に下着が出しっぱなしになっていたので慌てて私は隠した。

「ピンクか、意外性ゼロだな」葛城は鼻で笑う。

…しっかり見られた上に、小馬鹿にされるとは…。

「何しに来たのよ」私はキッと睨みつける。

「夜這い」

私が真っ赤になったので、葛城はゲラゲラ笑う。どうやら冗談らしい。
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